錦織圭選手は肘のケガからの復帰後、実戦に慣れるため、レベルを下げてチャレンジャーに出場しました。その結果2大会連続優勝し、全仏でも勝利を上げ順調に復調してきており、次のウィンブルドンも楽しみになってきました。
一方自分は、ケガもしてないのに12ヶ月も大会に出ていません。それどころか今年に入って3回しかテニスをしていません。このマニアック通信もさすがにネタ切れで存続の危機でした。
このままではまずいという思いと、あるお客様からの「マニアック通信の試合ネタが大好きです。」の一言で、無理を承知で一般の大会のシングルスにエントリーしてしまいました。
当然、錦織圭作戦でレベルをチャレンジャー(中級)に合わせ、少しでも勝ちを拾うセコい作戦です。そんな簡単に事は運ぶはずもなく、数々のトラップをテニスの神様は用意していたのです。
引越して来たばかりなので、電車の乗り方にまだ不安があります。
案の定、まずひばりヶ丘で間違いました。
西武線なのですが地下鉄が乗り入れており、まずそれに乗ってしまうミス。次に乗り換えをする一つ手前の駅で降りてしまうミス。最後は目的地とは反対側の改札を出てしまうミス3連発で、余裕を持って出てきたのに、気が付けばぎりぎりです。
やっとのことでフロントで受け付けしようとしたら、「試合の受け付け場所は、コートで行っています。」と神様が女性スタッフに化けているかのようににこやかに言われました。って、コートまで500メートルくらいあるじゃないか。コートまでダッシュしなんとかセーフ。いい準備運動になりました。
参加者は12名で、3人による総当たり戦後、1位トーナメントがあります。
自分はぎりぎりに来たので、第一試合は待ちになりました。次に当たる選手の研究をすることにし、コートサイドに陣取りました。
20代前半のハードヒッターと30代後半のオールラウンダーの戦いです。
ん?コートがオムニに変わってるじゃないですか。昔に来たときはハードだったので、勝手にハードコート用(ゲルレゾリューションなのでオールコート用)で来ちゃいました。
またまた神様のトラップです。
試合の方は一進一退の熱戦で6-6までもつれています。
ここで当事者同士でなにか話しています。大会本部のスタッフに尋ねました。
「6-6はタイブレークですか。」
「6ゲーム先取です。」
「えっ、じゃあどうなるのですか。」
「6ゲーム目を先に取ったほうが勝ちです。」
たまに、やっちゃうんですよね。試合前にルールは確認しとかないといけませんね。
という自分も知りませんでしたが。
30代のオールラウンダーが勝利し、20代のハードヒッターに握手を求めましたが、なんと握手を拒絶しました。その後、沈黙のまま30代のオールラウンダーはすまなそうにもじもじして、20代のハードヒッターは今にも泣きそうな顔です。
2分位経ってようやく吹っ切れたのか渋々握手して決着がつきました。
やっと自分の番です。
簡単に相手にキープされ、自分のサービスですが、なんと3連続ダブルフォールトです。どうやら、アエロプロライトの試打で4連続ダブルフォールト(全球フレームショット)の余韻を引きずっているようです。
こんな調子で気が付けば0-5でやっとエンジンがかかってきましたが、2-6で敗退です。
「1位トーナメント頑張って下さい。」
とエールを送りました。
当然2勝ですので1位確定ですが、前代未聞のとんでもない事件が勃発したのです。
自分は次の試合のためそのままコートで待機して、20代のハードヒッターを待っていたのですがなかなか現れません。
先程のショックでリタイアしてしまったのでしょうか。
いいえ違いました。20代のハードヒッターは30代のオールラウンダーを捕まえて何か必死にアピールしています。遠くて何を言っているかわかりませんが、きっとこんな感じでしょう。
「6ゲーム先取とお互い知らずにやってたのだから、自分だけが悪いわけじゃないですよね。」
「まぁそうですね。」
「自分はタイブレークに自信があったので、6ゲーム目を無理に取りに行かなかったんですよ。」
「あっそうなの。」
「だから、先に6ゲーム目を取ったから勝ちというのは納得がいきません。」
「何となくわかるよ。君の気持ちは。」
みたいな感じで5分は経ったと思います。
待たされるこっちがイライラしてきました。
いくら頑張ってもルールなんだから、どうしようもないでしょう。
我慢できずに、大会本部のスタッフに「揉めてるみたいなので何とかして下さい。」とお願いしました。きっとガツンと言ってくれるはずです。
大会スタッフが間に入ってなんとか収まりました。
「中居さん、しばらく待機でお願いします。」
ガーン(死語をあえて使いたいくらいショックでした。)5-5からやり直すそうです。
そんなのありかよ・・・
30代のオールラウンダーはよく納得したな・・・
大会スタッフはずいぶん権力ないな・・・
次から次へと心の中で叫びました。
でもテニスの神様まではきっと許さないはずです。こういう時は結局同じ結果になるものです。
ちなみに、この大会は練習なしのルールです。30代のオールラウンダーは非常に紳士的な人で、相手のサービスという場面からのスタートだったので、相手にサービスの練習を許したのです。
しかし、この温情があだとなったのです。
サービス練習が何球という決まりがないこともあって、ファーストサービスがフォルトの後、アンダーサービスでセカンドを打ったのですが、相手はまだ練習かと思って、そのアンダーサービスを手でキャッチしてしまったのです。
「あっこっちはサービス練習いらないよ。」
「えっ今のセカンドサービスですけど。」
ア然とする30代のオールラウンダー。
紳士的にサービス練習を許したのがあだとなってしまったのです。
でもこれは、回りから見ていてもセカンドサービスをアンダーで打ったことは明白です。大会スタッフも見てましたし。
「じゃあ、ファーストからやり直しましょうか。」
おいおい、勝手にルール変えていいのかよ・・・
相手に借りがあるからって、あまあますぎるよ・・・
セルフジャッジを勘違いしてるぞ・・・
大会スタッフも見て見ぬふりかよ・・・
とまた、心の中で叫びました。
結局、20代のハードヒッターがこのゲームを取ってしまったのです。あろうことか、ドラマ「仁」でもないのに、過去の事実が変わってしまったのです。
20代のハードヒッターが過去を変えてしまったのです。
心にわだかまりがある中、20代ハードヒッターとの試合です。さっきまではまったく入らなかったサービスが神が乗り移ったかのように入り始めました。ボレーも決まりだし、キープキープで5-5です。
「6ゲーム先取ですよね。」とちょっといやみを言って、リターンを待ちます。
相手のファーストサービスが3本決まって、40-0のマッチポイントが来ました。
絶対絶命のピンチです。
何とかサービスをリターンすることに集中です。
この試合に自分が勝てば、30代のオールラウンダーが1位になり、過去の事実を元に戻すことができるのです。
「40-0」のコールの後、アドコートから打たれたサービスは間違いなく今日一のスピードでしたが、フォルトでした。
事件です。相手が腕を押さえてうずくまっています。
どうやら、今のサービスで負傷したようです。
次のサービスは、明らかに今までとは打ち方が変わって、ダブルフォールトです。
40-15になり、次の威力のないサービスを相手のバックにフォアスラでネットに出ました。ストレートに来たパスを対角線上に深く流し、次のフォアのパスを待ちましたが、明らかなアウトボールでジャッジしました。
相当腕が痛いみたいで、両手バッグは打てても片手のフォアは打てないようです。
40-30になり、相手には申し訳ないが、過去の事実を変えるわけにはいかないので、フォア側にムーンボールを打ち続けました。予定通り相手のミスで40-40になりました。
ノーアドですので、この一本で勝負が決まります。流れは完全にこちらに変わっています。
神様が味方についているようです。
力のないファーストがフォルトし、セカンドです。なんと、アンダーサービスで打ってきました。スライスでネットに出ようと思っていたところに、アンダーサービスです。一瞬、先程のアンダーサービスやり直し事件が脳裏をよぎり、アドレナリンが噴射し、フォアのグリップを厚く握り変え、強打しました。
突然のグリップチェンジで予定より、低い弾道で飛んで行ったボールは、ネットの先端に当たり、真上に1.5m程跳ね上がりました。どっちに落ちるのか、お互いボールを追いかけるのはやめじっと見守ります。しばらくの静寂ののち、ボールはこちら側に落ち、試合は決着しました。
残念ながら、過去の事実を元通り戻すことはできませんでした。
そもそも人間がそんなことができるはずもなく、神様が味方になっていると思っていた時にはすでに去った後でした。きっと、40-30でムーンボールをフォアに集めた時には鬼のような形相になってましたから、神様もあそこで見放したのでしょう。
その後、20代のハードヒッターは1位トーナメントで腕の怪我もあり、簡単に敗退してしまいました。
どんなに、小さな大会でも守らないといけないルールはあると思います。
ルールがあるから、スポーツなのです。
ルールがなかったら、ただのラリーでおもしくもないし、競技として成り立ちません。
次回参加するときには、ルールの厳格さ、セルフジャッジの大切さをプレーを通じて教えられるよう、スキルアップして臨みたいと思います 。